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■野口レポート

No.309 勘定と感情の借地問題 (令和4年6月)

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※こちらのレポートは過去のレポートのリニューアル版です。

借地人「ここに住まなくなったので、借地権を買い取ってくれませんか。」 地主「買えだと、とんでもんない。使わなければ無償で返すのが当たりまえだろう。」 借地人「ならば仕方ありません。他の人に売ります。」 地主「売れるものなら売ってみろ、裁判でも何でもやってやろうじゃないか。」 地主と借地人がこんなやりとりをしたあと、借地人が私のところへ相談に見えました。
旧法借地権が複雑なのは度重なる改正で、本来は債権である土地賃借権を、物権である所有権に限りなく近づけてしまったことにあります。日本で唯一、借りたものを返さなくていい法律です。
借地権の譲渡や家の建替えは、地主の承諾が得られなければ、借地非訟手続きで裁判所が代諾許可を出してくれます。だが、地主と揉めている借地権をあえて買う人がいるかどうかは疑問です。
また、買主が銀行から融資を受けるには地主のハンコが必要となります。揉めていたらハンコなど押す地主はいません。代諾許可での借地権譲渡は現実には難しいものがあります。
借地人からの相談を受け、取りあえず地主のところへ行きました。地主は借地人に対し怒り心頭です。他でも裁判をしており、「裁判は自分の生きがいだ」と言っています。銭勘定に人の感情が絡んでくる借地問題は相続問題とよく似ています。


そんな折、ある住宅メーカーが提案してきました。借地権を買い取りたいとのことでした。裁判所の代諾許可を取り、投資家からお金を集め、アパートを建て家賃収入を配当するとのことです。ファンドを組めば融資を受ける必要はなく、地主のハンコもいりません。
しかし、このまま住宅メーカーに借地権を譲渡してしまったら、その道のプロが商売に徹し入ってきます。地主はいやな思いをするでしょう。借地人にしても後味の悪さが残ります。
借地人には譲渡価格を譲れるところまで譲っていただきました。地主の奥様に状況を説明し、ご主人の説得をお願いしました。地主も一歩譲ってくれ借地権を買い戻してくれることになりました。
ここで予期せぬことがおこりました。借地人に不都合が生じ、引っ越しが延びてしまい、借地を引き渡せなくなりました。
持っている知識と知恵を絞り、ある提案をさせていただきました。
(1)地主が借地権付建物を借地人から買い取る。(2)地主の所有になった建物を、借地人が更新のない定期借家契約で借り、明け渡しを担保する。(3)地代相当額を家賃として払い、引っ越し準備が整うまで引き続き住む。(4)この二つの契約を同時に行う。
1年後、無事に引っ越しが終了し、双方から感謝されました。
犬猿の仲であった地主と借地人ですが、今は2人ともこの世にはいません。人の寿命などたかが100年です。感謝の気持ちと譲る心を忘れずに、明るく素直で健康な人生を過ごし、最後は穏やかに旅立っていきたいものです。

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