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■野口レポート

No.154 二つの自筆証書遺言 (平成21年7月)

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ある相続案件で自筆証書遺言の遺言執行者を引き受けることになりました。被相続人には子どもがいません。両親はすでに他界しており、相続人は奥様のAさんと故人(夫)の兄弟姉妹になります。
自筆証書遺言は家庭裁判所の「検認」を受けなければ執行することができません。相続人全員が裁判所に呼ばれます。
Aさんに付き添い裁判所に行きました。代襲相続人の甥姪と廊下で顔を合せました。叔母ちゃん、元気と声をかけてくれます。
関係者が室のなかに入りました。遺言は相続人全員の前で開封されます。廊下で待機していると、検認を終え関係者が出てきました。先ほどとは打って変わり一言も口を聞きません。
開封した遺言には、「妻○○に全財産を相続させる」と書かれていました。法的要件も満たしており有効です。
遺産は自宅の土地建物と預貯金等が約2,000万円です。民法での相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。
Aさんは自宅(4分の3)を相続し、住むところは確保できます。だが、他の相続人が権利を主張したら、老後に必要な2,000万円(4分の1)の生活費は持っていかれてしまいます。
兄弟姉妹やその代襲者に遺留分はありません。夫が残してくれた一枚の自筆証書遺言でAさんは救われました。


遺言は法律で決められた厳格な要件があります。ひとつでも外れていると無効です。○年○月吉日→吉日では日が特定できず無効となります。同じ遺言が2通あったら後日付けが有効となります。
アパート2棟のうち1棟を相続させる→どちらの一棟なのか特定できません。不備で使えない自筆証書遺言は何度も見てきました。 
公正証書遺言は公証人が作るので法的不備はまずありません。
検認も不要で相続人が顔を合わすこともありません。「相続させる」とあれば、遺言執行者がいなくても不動産の登記ができます。
しかし、プランを練るには時間がかかります。遺言者が高齢では何がおきるか分かりません。何とか字が書けるなら、「取りあえず自筆証書遺言」を書いていただくことがあります。
ある案件でこの遺言を作りました。本人の意思を確かめ、最短な文言で見本を作り、法的不備が生じないよう目の前で書いてもらいます。他人は一切手伝うことはできません。おじいちゃん(おばあちゃん)が自分の力で書かなければなりません。
訂正は厳格な方法が決められて無理があります。間違えたら最初からやりなおしです。おじいちゃんは、子供達のため一生懸命です。何回も書き直しをしてくれました。
そんな尊い姿を見ていると涙が出てきます。終わったときは、おじいちゃん、ありがとう頑張ったねと手を握ってしまいます。
後日、公正証書遺言ができ上がります。そして、リスクを補っていた先日付の自筆証書遺言は、無効となりその役目を終えます。

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