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■野口レポート

No.166 相続実務は鴨の水掻き (平成22年7月)

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水面を泳いでいる鴨は外から見るとスイスイと優雅です。ところが水面下では絶えず脚を動かしています。
ある相続案件の依頼を受けました。被相続人には先妻との間に子がいます。相続でもめぬよう、公正証書遺言を作ってありました。専門家が作成したので法的不備はありません。
だが、先妻の子の遺留分を大きく侵害しています。もし、遺言を執行してしまったら遺留分減殺請求される可能性があります。
また、不動産の特性を考慮していません。遺産のなかに一区画の土地があります。利用の現状と筆が異なっており、遺言(筆)通りに分割してしまうと、ほとんどの土地が接道を満たさず、建築確認を取ることも売却することもできません。
この土地を一度合筆し一筆に戻し、現状に合わせた分筆をし、私道も位置の指定を受ける必要があります。合筆は所有者が同じでなければできません。遺言通り各相続人に登記をしてしまったら、合筆と新たな分筆が不可能となり、土地は死んでしまいます。
分割前の共有状態なら、相続人全員のハンコが揃えば、合筆することができます。現状に合わせ分筆したあと、遺産分割の話し合いで各人が相続すれば全部の土地を生かすことができます。


至難の仕事ですが、チームを組んだパートナー(税理士・土地家屋調査士・司法書士)を信じ、自分を信じ、やるしかありません。
苦労をしましたが、相続人に状況を理解していただき、依頼者にも譲っていただき、合筆・分筆後に遺産分割も無事成立しました。
ひとつの壁(遺産分割)を越え、ホッとする間もなく次の壁(相続税)が立ちふさがります。
相続税は10カ月以内に現金一括払いが原則です。先の改正で「とりあえず物納」はできません。確定測量、越境物解消、開発許可要件などを満たし、期限内に土地を換金できるかが勝負です。
この土地をめぐり、蜜に群がる蜂のごとく不動産ブローカーが寄ってきます。口では巧いことを言っても相続人のことなど考えていません。そして潮が引くように去っていきます。
10億20億の土地資産家の、遺産分割から相続税一括納付まで一連の作業は、難度が高く心臓外科手術のようなものです。
遺言を使ってしまえば楽です。だが、遺留分減殺請求をされてしまったり、土地が死んでしまったら、相続人が不幸になってしまいます。遺言を放棄していただき(相続人全員の合意が必要)、苦労を承知で、あえて遺産分割での話し合いを選びました。
難しい仕事をさりげなくこなすのがプロです。だが、水面下では絶えず脚を動かしています。それはお客様からは見えません。
そんな苦労を支えているのは、仕事に対し微塵もブレない信念と、相続人の幸せを守る実務家としてのプライドです。

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