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■野口レポート

No.305 相続と三尺箸 (令和4年2月)

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※こちらのレポートは過去のレポートのリニューアル版です。

「地獄でも極楽でも、食卓にはたっぷりのご馳走が用意されている。ただし、どちらの住人も、三尺(約90センチ)の箸を使って食べなければならない。地獄の住人は、先を争って長い箸で口に入れようとするが、届くはずもなく飢えてやせ細る。
極楽の住人を見れば、長い箸でご馳走をつまみ、向い合う人の口に、どうぞと食べさせている。互いに与え合い、楽しく満ち足りた心持ちで暮らしている。」三尺箸と呼ばれる仏教説話です。
◎この三尺箸を相続に置き換えてみました。
『食卓には親が残した、たっぷりのご馳走(遺産)が用意されている。相続人は、三尺の箸でこのご馳走を食べなければならない。
ある相続人は、親が残してくれたご馳走は「当たり前」だと思っている。感謝の気持ちなど全くない。先を争って長い箸で口に入れようとするが、届くはずもなく身も心も荒んでくる。
ある相続人は、親が残してくれたご馳走は「ありがたい」と思っている。感謝の気持ちがあるから譲ることができる。
長い箸で他の相続人に、どうぞと食べさせてあげる。こちらが譲るから、相手もどうぞと食べさせてくれる。互いが譲り合うから、楽しく満ち足りた心持ちになり、幸せに暮らすことができる。』相続の三尺箸と呼んでいる野口説話です。


我欲で三尺箸を使ったら、相続人は幸せになれません。まして奪い合ったら、兄弟姉妹の縁は切れてしまいます。相続が原因で切れた縁は、元に戻ることはありません。
ところが、長い間切れていた兄弟姉妹の縁が、相続をきっかけとして元に戻ることが稀にあります。
父親が亡くなり長女(Aさん)から相続手続きの依頼を受けました。遺産は預貯金と自宅です。相続人は母親と子どもが4人です。
相続人の一人である弟は、30年間行方不明です。一人でも欠けたら相続の手続きはでません。疎遠になった原因は弟にあり、すでに兄弟姉妹達は縁を切っているとのことでした。
戸籍を追うと弟は広島にいることが判明しました。弟に相続人である旨の手紙を出しました。広島から電話が入りました。母親と同居し世話をしているAさんが遺産を相続することで、他の相続人とは、すでに合意していることを弟に伝えました。
数回のやり取りのあと、弟は気持ちよくハンコを押してくれました。弟の対応を知ったAさんは、昔のことは忘れると言ってくれました。互いが、三尺箸を上手に使ったのです。
相続手続きも終わり、Aさんに広島へお礼の電話を入れてくれるようお願いしました。弟はとてもよろこんでくれたそうです。Aさんは他の兄弟とも相談し、弟を父親の一周忌に呼ぶそうです。
見えない力を感じることがあります。兄弟姉妹の縁が戻ったのも、亡き父親が導いてくれたような気がしてなりません。

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