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■野口レポート

No.131 56年目の橋渡し (平成19年8月)

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“母親の同じ場所から生まれてくる、そして誰もがスッポンポン、だから兄弟姉妹です。まして2人姉妹なら、姉と呼べるのも、妹と呼べるのも、この広い世界にたった1人だけです。もし、親の残した財産をめぐり、兄弟姉妹が争ってしまったら、これほど親不孝はありません。
知人を介し相談を受けました。相談者は83歳(女性)Aさんです。18年前に母親が亡くなり、まだ相続手続をしていません。
遺産は築年数38年のマンション1室(1K)だけです。相続人は56年間疎遠で、父親の異なる妹Bさん1人とのことでした。
調査の結果、Bさんの最後の住所は山形県になっていました。戻ってこないことを念じ(戻ったら居ない)、連絡を乞う手紙を出しました。ダイレクトメールと間違えられゴミ箱へ捨てられないように、《○○様相続の件》と宛名の下に明記します。
1週間ほどでBさんから電話が入りました。事情の説明にお伺いしたい旨を伝え、山形へ出向きました。Bさんは71歳です。姉が56年間連絡をくれなかったこと、母親が亡くなったのを知らせてくれなかったこと、誤解も重なり何を今更と立腹しています。
このままでは子どもや孫の代まで憂いが残るとBさんを説得しました。Bさんに代償金を払いAさんがマンションを相続することになりました。だが、その後がまとまりません。


地方から見れば東京の不動産です。資産価値の認識にズレが生じ、代償金の額で意見が合いません。しかたなく時間を置くことにしました。半年後Bさんに電話を入れてみました。このままでは母親が成仏できないからと、一歩譲ってくれました。
だが、姉には会いたくない、ハンコは押すから野口さん1人で来て欲しいとのことでした。それではこの仕事を引き受けた意味がありません。この相続案件の目的は異父姉妹の縁を取り戻して差し上げることです。ここばかりは一歩も譲れません。
ようやくBさんに理解いただき、Aさんと一緒に山形に行きました。タクシーを降りると、Bさんが門前を掃いていました。これがお姉さんですよ、これが妹さんですよ、と紹介いたしました。
戸惑いながらも嬉しそうなBさんの表情が印象的でした。
56年振りに感動の再会です。もう言葉はいりませんでした。
相談を受けてから終わるまで1年かかりました。わずかな財産でしたが、母親が残してくれたからこそ、56年目の再会ができたのです。天国の母親も喜んでいることでしょう。
手間暇を考えたらできない仕事でした。だが、相続は報酬が全てではありません。仕事を通し、人と社会のお役にたてること、自分が磨かれることです。見えない報酬が「徳」となり天に蓄えられ、神様はちゃんと帳尻を合わせにやってきてくれます。
やってよかった、いってよかった、小さな案件でしたが、大きな仕事を成し遂げた気分で山形を後にしました。

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