■野口レポート
No.125 女性を泣かす (平成19年2月)
“女性を泣かす”こんな罪作りなことはありません。自慢にはなりませんが、幸か不幸か私はそちらの方は不器用で、若い頃女性を泣かしたことはありません。しかし、この歳(還暦)になってよく女性を泣かしてしまいます。
知り合いを介し名古屋からある母娘が相談にみえました。
相談者の娘さんは4人兄弟姉妹の長女です。長い間父親の介護をし、最後を看取りました。現在は高齢の母親と一緒に暮らしています。父の介護と母の面倒で婚期を逃してしまいました。
妹さんは嫁ぎ、弟達も独立し家を構え幸せな生活を送っています。自宅の敷地と建物は先の相続で母親の所有になっています。将来母親に相続が発生したらどうなるのかとの相談でした。
相続の相談を受けた時、一番先に考えることは法律や財産ではなく、その人の幸せです。相手の幸せを心から考えた時、問題の本質が見えてきます。本質が見えれば方向が決まり、何をしなければならないかが分かります。
この相談の本質は長女の将来の生活です。遺言の作成が必要です。遺言の目的は、母親から長女が自宅敷地を単独で相続し、将来必要に応じ売却し、老人ホームや介護費用などの資金に当てることです。一人身の娘さんにとって頼りになるのはお金です。
母親の有する全財産を長女に相続させる遺言の提案をしました。
次は、遺言者の気持ちを他の相続人に伝える付言の作成です。おばあちゃんの想いを十分に聞いて感じ取り作文を作成します。
付言には法的効力はありません。だが、親の気持ちを伝えることで、他の相続人からの遺留分減殺請求を防ぐ抑止効果があります。
父の介護そして母の面倒を見るために、娘さんは婚期を逃してしまったこと、自分達の犠牲にしてしまったこと、一人身の娘の将来が心配であると、切々と胸の内を語ってくれました。
遺言者の想いを文章にかえ、読み聞かせました。最後は「どうか私を安心させてください。他の妹や弟達も私の気持ちを察してくれることを切に願います。 母 」と、しめくりました。
おばあちゃんは、一言一句うなずき目は涙でいっぱいです。
おばあちゃんの心を間違いなく付言に託せたと確信しました。
年が押し迫ってからの相談でした。2人には安心してお正月を迎えていただきたく思い、公証人と素早く打ち合わせし、年末の最終日(28日)無事に遺言公正証書を作成することができました。
2人とも心から喜んでくれました。
これで長女は母親の全財産を相続できます。最後に残った長女の財産は、第3相続順位の妹弟達が均等で相続できます。長女の寄与や、財産の終着点を考えれば文句の出どこはないと思います。
「おばあちゃん、大丈夫ですよ。娘さんは私が守ってあげますからね。安心してくださいね。」また泣かれてしまいました。
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