■野口レポート
No.267 実務家から見た相続法改正 (平成30年12月)
平成30年7月6日に相続法の改正が成立しました。平成31年1月13日から2年後の7月13日までに順次施行されていきます。法律家ではなく実務家として今回の改正の要点をお伝えしたいと思います。
《配偶者居住権の新設》
◎夫が亡くなったあと、自宅を配偶者が相続すれば住み続けることができます。だが配偶者の相続分は1/2です。一般家庭の財産構成は、自宅土地建物(約3000万円)、預貯金が3000万円位でしょう。
1/2の相続分で住居は確保できますが、他の相続人に権利を主張されたら預貯金は相続できず、生活費が確保できません。配偶者の目的は自宅の所有でなく生涯住めることです。居住権があれば目的は足ります。
所有権に比べ居住権の財産評価(推定余命で異なる)は低いです。余った相続分を預貯金の相続に回せます。この法律の裏には親子関係の希薄が存在します。普通の親子ならこんな法律は不要のはずです。
《自筆証書遺言に関する方式緩和》
◎自筆証書遺言の法的要件に「全文を自分で書く」とあります。土地などの財産が多く、まして高齢なら全部自分で書くのは至難の業です。
今回の改正で、財産目録はパソコンや、通帳の写し、不動産登記簿謄本の写しでもよし、ただし各ページに自筆で遺言者の署名押印が必要となります。今までに比べ使い勝手が数段向上します。
申請すれば法務局が本人確認をし、かつ法律上の要件をチェックし(封印不可)保管します。保管すると家裁の「検認」を省略できます。検認不要はメリットが生じます。法的要件を欠き無効になるものや、要件を満たしていても受遺者や物件が特定できず、使えない自筆証書遺言は驚くほど多いです。法務局のチェックで無効の遺言は減るでしょう。
《預貯金債権の払い戻し》
◎預貯金は可分債権として、遺産分割協議を経ず法定相続分で相続人が払い戻しを受ける権利がありました。だが平成29年12月29日の最高裁の判例変更で、遺産分割を経なければ払い戻しができなくなりました。争ったら払い戻しはできません。相続人は当座のお金に困ってしまいます。そこで救済処置として、遺産分割を経ず銀行の各口座ごとに1/3までなら仮払いを受けられるようになります。 計算式⇒1口座ごとの相続開始時の預貯金×1/3×1/2(相続人2人の場合)=仮払金。
◎だが、遺言や死因贈与で指定されている預貯金は除くとあります。遺言の存在が分からない銀行は、保身を考え相続人全員の承諾を求めてくる可能性があります。それでは仮払いの意味がありません。この制度が目的通り機能すればよいのですが。
《特別寄与者による特別寄与料の請求》
◎民法には寄与分制度がありますが、相続人のみに適用され義父母の介護をしたお嫁さんには権利がありません。改正で被相続人の特別な介護をした一定の親族やお嫁さんは、各相続人に対し特別寄与者として特別寄与料を請求できます。ただし、介護に費した「肉体的」「精神的」な、大きな負担が相応に対価に反映するかは疑問です。
20年後にまさかの再会 (平成30年11月) ≪前へ次へ≫ 単純にして最大の疑問 (平成31年1月)
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