■野口レポート
No.270 正しい知識で正しい贈与 (平成31年3月)
今回は生前贈与についてお話してみましょう。贈与は契約行為であると認識することが重要です。
贈与者の「あげます」の申し込みに対し、受贈者の「もらいます」の承諾があり、互いの意思が一致して初めて贈与契約が成立します。贈与者のあげるとの意思(一方通行)だけでは贈与契約は成立しません。ここは大事なポイントです。
贈与契約が成立しているのか、単なる名義預金なのか、相続税申告でもこの判断は悩ましいところです。
中元歳暮を考えてみましょう。「いつもお世話になっています。つまらないものですがほんの気持ちです」⇒あげるという意思表示です。「ご丁寧にありがとうございます。」⇒もらうとの承諾です。
申し込みに対し、承諾があり、互いの意思が一致するので、中元歳暮も立派に贈与契約が成立します。
神社仏閣のお賽銭も同じです。お賽銭を投げ入れることは「あげる」との意思表示です。それに対し賽銭箱のフタが開いていることは「もらいます」との承諾であり贈与契約が成立します。
生前贈与は1年間1人に対し、基礎控除の110万円までなら課税されない「暦年贈与」があります。12月31日に110万円贈与しました。翌日の1月1日に110万円贈与しました。1年間に1回なので暦年贈与です。実質は1年間に220万円贈与したのと同じです。
ただし、相続開始3年以内に行った贈与は相続税計算上いったん相続財産(払った贈与税は控除される)に戻さなければなりません。
もうひとつは「相続時精算課税制度」があります。1月1日現在60歳以上の直系尊属(祖父母や父母)から20歳以上の子や孫へ2500万円までの贈与は申告すれば、取りあえず贈与税は払わなくて済みます。
この制度を使った贈与は、相続開始時に「贈与時の評価」で相続財産に戻し、精算しなければなりません。
不動産や株式の贈与はリスクが生じる可能性があります。1億円で贈与した土地が相続開始時には7000万円に下落していても、贈与時点の1億円の評価で申告です。この逆なら節税効果が生じます。また一度この相続時精算課税制度を使ったら、暦年贈与は生涯使えません。
「住宅取得等資金の贈与」直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の制度です。一定の要件(要件により金額は異なる)を満たせば適用されます。
息子が自宅を新築しました。この制度を知った父親が住宅資金の援助をしたいと、2500万円を建築会社に直接振り込んでしまいました。状況によっては単純な贈与とみなされる可能性があります。
あくまでも息子が住宅を取得するための「資金」でなければなりません。父親が2500万円の「現金」を子に贈与することが大切です。現金を贈与された子が建築会社に払えば非課税です。
法律や税法は万民が公平であるがため存在します。だが正しい知識を知っているか、知らないかでは大きな不公平が生じます。そして法律も税法も知らなかったは通用しません。
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