■野口レポート
No.278 遺言書あれば天国、なければ地獄 (令和元年11月)
今回は遺言が必須の3例です。
①子どものいない夫婦がいます。夫は自分が亡くなったら、全財産は妻へいくと思っています。まさか自分の兄弟姉妹が相続人になるなどとは夢にも思っていませんでした。
夫が亡くなりました。相続人は妻のAさんと夫の兄弟姉妹です。兄弟姉妹は高齢なので1人を残し他は亡くなっており、代襲相続人の甥・姪が16人もいます。遺産は自宅の土地建物と預貯金です。Aさんは相続手続きを先送りにし、3年間も放っておいたので手持ちのお金が底をつきこのままでは生活できません。預貯金は凍結され引き下ろすことができません。状況が複雑なので遺産分割は難航し時間がかかりそうです。
最高裁の判例変更の前(可分債権で遺産分割不要)であり、弁護士に依頼し銀行を相手に預貯金返還請求の訴訟を起こし法定相続分の3/4を引き下ろし、取りあえずAさんの老後の生活費を確保しました。
遺言さえあればこんな苦労をすることはなかったのです。全財産を妻へ相続させる自筆証書遺言は5分あればできます。
(全文自筆で書く)
私は次の通り遺言します。
1、私の有する一切の財産を妻の山田花子に相続させます。
2、遺言執行者には上記山田花子を指定します。
令和〇年〇月〇日(書いた日付)
川崎市川崎区川崎町111番地
遺言者 山田太郎 ㊞
兄弟姉妹とその代襲者には遺留分の権利がありません。夫がこんな簡単な自筆証書遺言を残しておけば、手間暇や弁護士の費用もかからず、Aさんは簡単に相続手続きができたはずです。
②ある姪が高齢の叔父の世話をしています。叔父は独身で全財産を姪へ遺贈したいと希望しています。私がサポートすれば遺言は速やかに作れます。が、叔父は直接公証役場に行くと私への報酬を渋りました。
遺言者本人が公証役場に行き、遺言の作成を依頼すると、公証人から次のものを用意し、再度きてくださいと言われます。
〇不動産登記簿謄本 〇戸籍謄本 〇固定資産税評価証明書 〇預貯金等の概算額。これだけの資料を揃えるのは高齢者にとってハードルが高く、この段階で多くの人は挫折してしまい、公証役場を再度訪れ目的を達成する人は少ないそうです。
それから2ケ月、先送りしているうちに叔父は脳卒中で倒れ、遺言が作れる状態ではなくなりました。姪は叔父を説得してでも私に依頼すればよかったと大後悔しています。が、すでに手遅れです。
③子どものいないT男氏夫婦がいます。夫は遊び癖のある人で、奥様は苦労しながら耐えてきました。
最近は歳をとりさすがにおとなしくなりました。さんざん苦労をかけた奥様へ、せめてもの罪滅ぼしに自筆でよいから遺言書を作っておくことをアドバイスしました。このままでは奥様は、T男氏の兄弟姉妹と遺産分割の話し合いをしなければなりません。
費用もかからず簡単だから印をもって来てくださいと言いました。が、何度言っても来る気配がありません。こんな思いやりのない人のところへ嫁いでしまい苦労し、相続でまた苦労する奥様が気の毒です。
弁護士との連携 (令和元年10月) ≪前へ次へ≫ 小規模宅地の特例 (令和元年12月)
Copyright(C)Alfa Noguchi. All rights reserved.