■野口レポート
No.290 時間どろぼうと新型コロナウイルス (令和2年11月)
半世紀以上前に書かれた児童文学に「モモ」ミヒャエル・エンデ作があります。時間どろぼうと、ぬすまれた時間を人間にとりかえしてくれた女の子のふしぎな物語です。
数年前に知人にすすめられ読みました。児童文学とはいえ奥の深い本であると感じました。今この本がコロナ禍で注目されています。再読しさらに深さを感じました。
物語は、時間どろぼう(ゾッと寒気がする「灰色の男」たち)と自然のままに生きている浮浪児の女の子「モモ」との戦いです。
「灰色の男」たちにあやつられ、時間を盗まれてしまった町の人びとは、むだな時間が人生を豊かにすること、人間らしく生きられること、このことを完全に見失ってしまいました。
いい服装をし、お金もよけいに稼ぎました。しかし以前のようなしあわせな生活にはなれません。心もすさんでいきます。
意味は少し異なりますが、時間どろぼうは現代でも私たち人間のそばにいます。それは「新型コロナウイルス」です。コロナは多くの人たちから大切な時間を盗んでいきました。
①人の命⇒ 「志村けん」さんも人生の後半で一番大切な残りの時間を盗まれてしまいました。盗まれなければ独自の笑いで多くの人を楽しませてくれたでしょう。
②通勤時間⇒ 通勤時間も盗まれました。在宅ワークも20年などの長期になるとどうでしょうか、通勤は必要な時間と思います。
③温泉旅行⇒ 庶民のささやかな楽しみである温泉旅行の癒しの時間も盗んでいきました。開店休業の旅館やホテル、車庫には時間を盗まれた観光バスがあふれています。
④教育⇒ 大学生のなかには入学したが、一度も学校に行ってない学生もいます。大切な学ぶ時間も盗まれました。
コロナは、私たち人間から膨大な時間を盗みました。これ以上どんな時間を盗もうとしているのでしょうか? もうコロナに時間を盗まれたくありません。
話を物語に戻します。モモ⇒「時間をぬすまれてしまった人間はどうなるの?」灰色の男⇒「人間なんてものは、もうとっくから要らない生きものになっている。この世を人間のすむ余地もないようにしてしまったのは、人間じしんじゃないか。こんどはわれわれがこの世界を支配する!」(モモより引用)。
物語では「モモ」が「灰色の男」たちから盗まれた時間を取り戻し、人びとはもとの人間らしい生活に戻ることができました。
現代社会に「モモ」はいるのでしょうか、新しい生活様式に人間のリズムが合うのでしょうか、コロナ禍は私たちに「時間とは何か」を考える機会を与えてくれました。
この本は人間としての本来の生き方を忘れかけてしまっている現代人に警鐘をならし「時間の真の意味」を問うています。
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