■野口レポート
No.292 コロナ禍と相続実務 (令和3年1月)
コロナは人から大切な時間を奪い、多くの仕事や生活に影響を与えています。相続や不動産も例外ではありません。
◎一昨年の11月に父親がなくなりました。母はすでに他界しており、相続人は長男を含め4人です。遺産は自宅とアパート、預貯金株式なのどの金融資産がそれなりあります。
長男はお金をかけてもらい一流大学を出て一流企業に就職し、現在は自分で起業し業績も順調です。
遺産分割に際し「自分はハンコ代でいいよ。あとは3人で話し合ってくれ」と腹の太いところを見せていました。心が広いお兄さんだなと感心していました。
遺産分割の話会いも順調にすすみました。ところが年が明け3月になると、長男の会社がコロナの影響をまともに受け業績が急激に悪化してしまいました。
当初は「ハンコ代でいいよ」と言っていた長男の態度が一変しました。遺産分割は最初からやり直しです。父親が亡くなるのがあと1年早かったら円滑な分割で済んでしまったでしょう。
◎同じく一昨年の話です。老朽化した収益物件の売却の依頼を受けました。何とか売り抜けましたが、年が明けてしまったら買う人はいなかったと思います。わずか1年の差で運が分かれます。
コロナの影響で昨年の3月頃から相談者の来店が減っています。感染対策はとっていますが面談を控えていると思われます。コロナが終息してからと問題を先送りにしている人もいます。
代わりに遺言作成など一般家庭の相続対策の相談が増えてきました。コロナに背中を押され相続が現実味をおびてきたのでしょう。財産が自宅と預貯金が1000万円~2000万円、この層の優先すべき相続対策は遺産分割対策です。
配偶者が自宅敷地を取得するか、または小規模宅地特例の要件を満たせば、相続税の心配はまずないでしょう。ただし、10ケ月以内に申告が必要となるので税理士の費用はかかります。
遺産が相続税基礎控除を超えなければ、相続税の申告義務はなく遺産分割のみで済みます。こちらは期限の定めは特にありません。
また、相続争いの多くはこれらの層に発生します。主な財産が自宅では分けようがありません。遺言の作成は必須です。
兄弟姉妹の相続以外は遺留分の問題が絡んできます。先の相続法改正で遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権となりました。もし遺留分を請求されたら金銭で払わなければなりません。遺言作成と遺留分対策は一体で考える必要があります。
財産があれば遺留分を侵害しない遺言も可能です。が、上記の層ではそんなわけにはいきません。親の考えや思いを伝えておく、付言の工夫、生命保険の活用など準備が必要です。コロナ禍を機に相続対策の必要性が一気に顕在化してきた感があります。
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