■野口レポート
No.307 北風と太陽 (令和4年4月)
「北風と太陽が、力を争っていました。旅人の着物を脱がせ裸にした方が勝ちだということになり、北風は烈しく風を吹きつけました。吹けばふくほど旅人は着物を押さえます。太陽はほどよく照りつけ、徐々に暑さを増していきました。旅人は次々に着物を脱ぎ始め最後には裸になりました。」有名なイソップ物語の話です。
私の事務所は自社ビルの管理事務所を兼ねています。以前は隣がお弁当屋さんでした。従業員のおねえさんから相談を受けました。外壁に設置してあるガス湯沸かし器のコンセントを子ども達が抜いてしまい、その度に仕事が中断し、いくら注意しても聞いてくれず困っているとのことでした。駐車場が併設してあり、子ども達にはかっこうの遊び場です。どうも問題の主は小学生のようです。湯沸し器の横に目線に合わせ、次のようなメッセージを貼りました。
「元気なぼくたちへ おねがい ここのコードは抜かないでね お弁当屋さんの おばさんと おねえさんが いっしょうけんめい お弁当を作っています コードが抜けてしまうと お弁当が作れません おばさんや おねえさんが 困ってしまいます コードを抜かないと 管理人のおじさんと 約束しましょうね。」
いくら注意しても叱っても止まらなかったイタズラが、その日を堺にピタリと止まり、それ以来苦情は一度もありません。
ある地方では認知症になったお年寄りのことを「おじいちゃん(おばあちゃん)は、子供にかえってしまったなあ~」と言うので「二度童子(にどわらし)」と呼んでいるところがあります。
何と思いやりに満ちたあたたかな呼び方でしょう。赤ちゃんと認知症になったお年寄りの行動は似ています。赤ちゃんは成長過程だから誰からも文句を言われず笑って見ていられます。お年寄りの「二度童子」となると、実際に直面する現実の厳しさが心での受け入れを難しくしてしまいます。
認知症になると「叱りつける」「命令する」「役割を取り上げる」「何もさせない」ただ叱るだけでは悪循環に陥ります。あなたは北風になっていないでしょうか。
「できることをほめる」「ささいなことでも役割を担ってもらう」「失敗しないよう手助けをする」「本人の意思や長年の習慣を尊重する」「ポジティブになれる声かけをたくさんする」認知症のお年寄りに接するには、北風でなく太陽になってあげることです。
相続が本当の争いに発展してしまったら、互いが北風を吹きまくり、太陽など入る余地はありません。最後は弁護士が法律で処理するしかありません。相続が裁判になってしまったら、兄弟の縁は切れてしまい、勝っても負けても不幸になります。
が、本当の相続争いは少ないです。多くは自分達の努力で、まだ解決できる兄弟喧嘩のレベルです。相続で兄弟の縁を切らせないためにも、北風でなく太陽での対応が求められます。
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