■野口レポート
No.324 すりこ木 (令和5年9月)
「身をけずり 人に尽くさん すりこ木の その味知れる 人ぞ尊し」親戚の法事に呼ばれ、会食した日本料理屋さんのグラスのコースターに書いてあった言葉です。この言葉に感動し、コースターは持ち帰りオフィスの机の前に飾ってあります。
相続は法律と経済(お金)に人の心が複雑に絡んでくる難しい分野です。時には「身をけずる」覚悟も必要です。
◎行きつけのすし屋の大将から、常連の地主さんが飲んで酔うと、相続をお願いしている会計事務所の愚痴をいうので、一度地主さんの話を聞いてやってほしいと紹介されました。
土地が多く数億単位の相続税と推測されます。4か月が過ぎているのに、相続人の確定や相続税の概算すら出ていません。相続に精通している税理士にかえることを進言しました。
公正証書遺言があるが、先妻の子の遺留分を大きく侵害しています。また、不動産を考慮せず作成されています。遺産のなかに広大な土地(300坪)があり、建物が筆界のなかに収まっていません。遺言通りに登記してしまうと、多くの建物が境界を越境してしまいます。この土地の中央に道はあるのですが、不動産登記簿をみると単なる宅地です。このままでは建築基準法の接道を満たさず、周りの土地には家を建てることができません。
この土地を一度合筆し(遺産分割前の未分割共有状態ならできる)、利用の実態に合わせ分筆しなおし、それを遺産分割する必要があります。中央にある道(宅地)を整備し、位置指定道路(セットバックが必要)の認定を受ければ、多くの土地が建築基準法の接道を満たし、家を建てることができます。
皆が納得してくれましたが、ある亭主が出てきて、下がると面積が減るとの理由で拒まれました。位置指定道路がなければ皆が困ります。大きな効果を考えればセットバックなど小さなことです。
私の説明に納得できないと、提案した資料を持って弁護士のとこへ相談に行きました。弁護士からは「ここまでやってくれる人などいないよ」と逆に諭されて帰ってきました。
遺言を使ったらこちらは楽です。しかし先妻の子から遺留分の請求をされる、合筆と新たな分筆ができない、位置指定道路もできない、家が建たない、土地は二束三文となり一族は相続で不幸になってしまいます。何でこんな遺言を作ったのか理解できません。
先妻の子も誠意ある対応に心を開いてくれました。パートナーの、税理士・土地家屋調査士・司法書士も自分の仕事を確実にこなしてくれました。提案通りに完了し、思い出に残る仕事になりました。
相続は大小に関係なく、身をけずる思いをすることがあります。その味を知れる人もいます。が、味すら分からぬ人もいます。
後日、チームを組んだパートナーと大将の店で互いの労をねぎらいました。難しい仕事をやり遂げたあとのお酒の味は格別です。
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