■野口レポート
No.329 売買と贈与の契約 (令和6年2月)
私達が日常さりげなく行っている行動ですが、その多くが契約という法律行為になります。
契約の最たるものである不動産の売買を例にとってみましょう。買主のこの土地を「売ってください」との意思表示(申込)に対し、売主の「売りましょう」という意思表示(承諾)がありました。買いましょう、に対し売りましょう。買主と売主の意思が合致し売買契約が成立します。なお契約は口頭でも成立します。
売主には売買代金をもらう権利(債権)と、土地を引き渡す義務(債務)が生じます。買主には土地を引き渡してもらう権利(債権)と、売買代金を払う義務(債務)が生じます。契約は約束事です。約束は守らなければなりません。
契約のなかに「履行に着手するまでは、買主は手付金を放棄し契約を解約ができる。売主は手付金を倍にして返すことで契約を解約できる」とあります。分かりにくいのは「履行に着手するまでは」この条項です。魚屋さんに例えてみましょう。
「この魚をください」お客さんの申込みに対し、「毎度ありがとうございます」魚屋さんの承諾があり、売買契約が成立しました。 お客さんが財布を開けた時が履行に着手です。魚屋さんの包丁が魚に入った時が履行に着手です。
次は贈与契約について考えてみましょう。贈与契約で一番大事なことは、贈与を受ける側にもらう意思があるかどうかです。贈与者の「あげます」との一方通行では贈与契約は成立しません。
例えば、親が毎年100万円を贈与として子に振り込みます。子はこのお金を10年間一度も手をつけていません。子にもらう意思がないとみなされたら、贈与は無効になってしまいます。もらったお金は一部でもよいから使うことです。
「いつもお世話になっています。ほんの気持ちですが」このあげますとの意思表示に対し、「ご丁寧にありがとうございます」もらいますとの意思表示がありました。普段さりげなく行っている中元歳暮ですが、これも立派な口頭での贈与契約です。
贈与には年間110万円までは非課税の「暦年贈与」と、相続時に贈与を相続財産に戻す「相続時精算課税制度」があります。この贈与に大きな改正が入りました。暦年贈与は相続開始前3年以内の贈与は相続財産に戻すとあります。3年が7年となり、対策は親の長生きが前提となります。精算課税は2500万円の特別控除とは別に、基礎控除の創設で年間110万円以下までは非課税となり、この部分は贈与税申告と相続財産への持ち戻しが不要です。
精算課税には一定の要件があります。また一度選んだら暦年贈与は生涯使えません。選択は税理士や専門家と十分協議してください。精算課税を選んでいる人は、相続税申告の時には必ず税理士に伝えてください。ここを誤ると後で余計な手間がかかります。
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