■野口レポート
No.164 生前贈与と人間教育が国を救う (平成22年5月)
国の最小単位は家庭です。家族の崩壊は国の力を弱め、政治・経済・人心の発展を阻害します。相続争いはその最たるものです。
景気が低迷しています。だが会社を潰すのは景気ではありません。
最大の原因は、夫婦の仲が悪い、親子の仲が悪い、兄弟の仲が悪い、家族の心の不一致、家庭の不和にあります。
戦前・戦後を通じて、日本の教育界最大の人物である森信三氏(1896~1992)は、日本について次の通り予言をしています。
「我が国は西暦2000年から下降線をたどり、2010年にはどん底に至る。しかし2015年から上昇を始め、2025年には再び立ち上がる。」
森氏に師事した寺田一清氏はある月刊誌で「この予言からすると、この混迷はあと5年は続く、日本が再び立ち上がるためにも、この5年間の我々の生き方が問われている。」と語っています。
昔、日本を旅した外国人は、日本人の礼儀正しさ、親切と気配り、清楚な服装、マナーと気品、一様に日本の文化を絶賛しています。いったい、この日本人はどこへいってしまったのでしょう。
財産も家のものとの考えから、長男が家督を承継し、一切の義務を引き受けました。家督相続制度は、日本の風土に合った素晴らしい文化でした。親の隠居で生前相続も可能でした。
最近新たに設けられた新贈与(相続時精算課税制度)により、親が決断できれば事実上の生前相続も不可能ではありません。
生前贈与と遺産相続では同じ財産でも決定的な違いがあります。
贈与は受ける子供(受贈者)に権利がありません。全ては親の胸三寸です。権利がないから感謝の気持ちが生じます。
ところが相続となると子供に権利が生じます。互いが主張するから揉めてしまいます。もらうのは当たり前と思うから、感謝の気持ちがありません。親の恩と感謝を忘れ、多い少ないと比べるところから、相続人の不幸が始まります。
贈与制度が使いやすくなれば、生前贈与は増えるでしょう。親に感謝しながら受け取る生前贈与が、生前相続の意味合いを持ち、定着すれば相続争いは激減し、家族の崩壊もなくなります。
夫婦・親子・兄弟姉妹が、愛和をもてば、国の力は増し、再び立ち上がることも夢ではありません。キーワードは家庭にあります。
これらの実現に教育は欠かせません。全ての源は人、その根元は人間教育にあります。大事なことは目先の教育制度の改革ではなく、家庭の教育力の再建と真の教育者の育成です。
たしかに2010年は、政治・経済・人心、色々な意味でどん底です。落ちるところまで落ちて初めて大切なものに気付きます。
森信三氏は政治経済の学者や評論家ではありません。日本の教育界最大の人物が、教育者の目から我が国のいまを見通し、予言したところに注目すべき価値があります。
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