■野口レポート
No.195 借金も相続財産 (平成24年12月)
遺産には不動産や現金預金などのプラスの財産と、借金や保証債務などのマイナスの財産があります。どちらも親が残した相続財産に変わりはありません。
プラスの財産は遺産分割ができます。だが、マイナスの財産は遺産分割ができません。親が亡くなった瞬間に相続人は、法定相続分の割合で親の残した借金や保証債務を相続してしまいます。
アパートを相続した長男が、このアパートの借金も相続することで全員が合意しました。この遺産分割協議は相続人の間では有効ですが、債権者には対抗できません。長男が返済に行き詰れば、銀行は他の相続人に法定相続分で借金の返済を求めてきます。
ただし、借金相続には「免責的債務引受」があります。長男に資力や支払能力があると判断し、一人でアパートの借金を引き継ぐことを銀行が承諾してくれたなら、他の相続人は支払義務を免責されアパートの借金から外れることができます。
ある借金相続の手続きをお手伝いしました。相談者と一緒に某メガバンクに行きました。意外なことに借金の相続手続きの説明や手順を系列の債権回収会社にアウトソーシングしています。
債権回収のプロが対応に出てきました。これは決して感じの良いものではありせん。そのぐらい行員が対応すればいいのに……。
相続の現場実務で、借金が遺産分割や遺留分減殺請求に影響してくることはあまり知られていません。
長男がアパートとその借金を相続しました。弟がハンコ代(代償金)で遺産分割協議書に押印しました。免責的債務引受の承諾がなく、長男が返済不能となったなら、銀行は弟に対し法定相続分で借金の返済を求めてきます。弟には将来のリスクが生じます。このリスクを担保するために、ハンコ代では済まなくなります。
ある遺留分減殺請求(非弁にならぬよう必ずパートナーの弁護士と組みます)のお手伝いをしました。
某信託銀行を介しての遺言は、Aさん(先妻の子)の遺留分を大きく侵害しています。信託銀行は遺言を執行すると言っています。
Aさんは「私は争うつもりはありません。父の子であるとの証の意味で今少し遺産を相続したいだけです」とのことでした。
遺留分(法定相続分の2分の1)を満額減殺請求したら億単位の金額です。父親は相続対策になるからと、6億円もの借金をして賃貸マンションを建て(建てさせられた?)ています。
幸い銀行が免責的債務引受をしてくれました。もし、免責がとれなければ将来のリスクを担保するため、不本意ではありますがAさんは、遺留分を満額請求せざるを得ませんでした。
相続に借金が絡むと厄介です。地主さんは小さなお金にはシビアですが、大きな借金は平気でしてしまいます。借金も立派な相続財産であることを忘れてはなりません。
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