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■野口レポート

No.193 センスとセンサー (平成24年10月)

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飛び込みでAさん(長男)が相談に見えました。相続は初めての経験で、何処へ行ったらよいのか、誰に相談したらよいのか見当がつかず、勇気をだして入ってきたそうです。
亡くなった父親は、他に子がいることを生前に漏らしていました。そして、預金を除いた不動産だけの遺言を残していました。
相続手続の依頼を受け最初にすることは、司法書士などの専門職に依頼し、被相続人に生殖能力が生じるところまで戸籍をさかのぼり、相続人の確定(難度の高い作業)をしてもらうことです。
Aさんが心配した通り、父親は再婚で離婚した前妻との間にBさん(長女)がおりました。拝見した自筆証書遺言は、全部自筆、日付、署名押印があり法的要件は満たしています。
しかし、地番の記載しかなく、土地が特定できず登記ができません。結果として使えない遺言でした。だが、この遺言が別な意味で今回の相続案件の解決の要になるとは思ってもいませんでした。
Bさんに手紙を出しました。弁護士でないこと、Bさんが相続人であること、お会いし説明をしたいこと、文章と文言(法律用語は禁物)には細心の注意と気遣いを払います。ダイレクトメールと間違えられないよう、宛名の下に「〇〇様相続の件」と書きます。
このようなケースの相続人の多くは父親を恨んでいます。Bさんから連絡が入り、お会いすることができました。一瞬ですがBさんから父を気遣う言葉が出ました。ここは見逃しませんでした。


次に遺言に預金が指定されていなかった意味を考えてみました。あえて指定しなかったのは、預金は遺産分割でBさんに相続させたいとの親心(現家族には言えない)であると推測し、Bさんに伝えました。Bさんの心は次第にほぐれていきました。
相手のご家族のお許しがあれば「父の墓参りに行きたい」とBさんから申し入れがありました。ここは大事な場面です。承諾するか断るかでその後の展開に大きく影響してきます。Aさんにその旨を伝えたら、「父も喜ぶでしょう」と言ってくれました。
あえてお墓の地図(位置)をAさんに自筆で描いていただき、Bさんへ渡しました。これで承諾した真意が伝わります。
預金は全部(遺留分に満たない)Bさんが取得し、Aさん側相続人は全ての不動産を取得することで合意できました。
遺言に託した父親の「隠れた想い」を理解していただいた。A家の墓参りの快諾、お墓の地図などが功を奏し、普通では難しいとされる相続案件でしたが、もめることなく軟着陸しました。
状況を見極め的確に判断するセンスと、小さなことや微妙な心の変化も見逃さないセンサーがプロ(実務家)には求められます。
銀行手続きも終わり、別れ際のBさんの言葉です。「相手のご家族にお伝えください。相続させていただいたお金は大切に使わせていただきます。」苦労が報われる「うれしい」一言でした。

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