■野口レポート
No.216 使用貸借の落とし穴 (平成26年9月)
親の土地の上に子が家を建てる。ふつう親は子から地代はもらいません。親族や親しい縁者などに土地や建物を無償で使わせることはよくあります。これを使用貸借と言います。
この使用貸借は無償なので借地借家法は適用されません。「固定資産税は払っているよ」これもよく聞く話です。だが、固定資産税のみであれば使用貸借と解されます。
従来の土地賃貸借契約なら、地主(貸主)が更新を拒絶しても地主に正当事由がなければ、期限の定めのない契約として法定更新され、借地人は住み続けることができます。つまり、適正地代さえ払っていれば(供託を含め)、借地人は借地借家法で保護されます。
借地借家法の適用がない使用貸借は、定めた期限がきた時に終了します。期限の定めがない場合は、目的が終わった(使う必要が無くなった)時に終了します。また、借主が死亡した場合は、原則として終了します。逆に貸主が死亡した場合は、定めた期限がくるまで、もしくは目的が終了するまで存続します。
貸主が土地を第3者に譲渡した場合、賃貸借は建物登記があれば新たな地主に借地権を主張(対抗)できます。だが、使用貸借は新地主に自分の使用貸借権を主張できません。
昨年までは完全分離型(上下別で外階段・中仕切りで玄関二つ)の二世帯住宅は親と同居とはみなされず、相続税の小規模宅地の特例(自宅敷地240㎡まで更地評価の80%引き)が使えませんでした。今年の改正で同居とみなされ特例が使えるようになりました。
土地は親名義です。長男がローンを組み親の土地の上に二世帯住宅を建てました。土地は使用貸借です。親が亡くなったら土地は親の相続財産となり、相続人全員に権利が生じます。長男は手持ち資金を吐き出し長期のローンをかかえ、代償金の原資がありません。他の兄弟姉妹に権利を主張されたら辛いものがあります。
話は変わります。父親は末娘のAさんが可愛くてなりません。Aさんは結婚し数年がたち、土地を購入し家を建てることになりました。父親としては可愛い娘を遠くへ行かせたくありません。
ただそれだけの想いで、娘夫婦に土地の購入を思い留まらせ、自分の土地を使用貸借させ家を建てさせました。
数十年後、父親が亡くなりました。他の兄弟が権利を主張し譲ってくれません。Aさんの相続分は5分1しかありません。土地を相続する代償として、Aさんはコツコツ貯めてきた老後の生活資金をしかたなく兄弟に払うことになりました。
娘を引き留め土地を使用貸借させるなら、父親は相続対策(遺言)をきちんとしておくべきでした。悔やんでもどうにもなりません。相続は使用貸借の落とし穴です。親の土地を子に使用貸借させるなら、状況によっては相続対策をしておくことが必要です。
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