■野口レポート
No.146 70年の遺恨を断ち切る (平成20年11月)
10年ほど前に手がけた相続案件がありました。相続人は7人の兄弟姉妹です。長女のAさんから依頼を受け、三女のBさんのところへ行きました。AさんとBさんとの間には深い固執がありました。この2人をいかに合意に導くかが勝負となりました。
妹のBさんから見れば私は敵の手先です。最初は玄関にも入れてくれませんでした。真心と公平な対応が通じ、最後は心を開いてくれました。今度は逆にBさんから全幅の信頼を受けてしまいました。何かあると一番先に私の処へ相談にきてくれます。
それから6年後に姉のAさんは亡くなりました。最近Bさんの姿が見えないので気になっていました。大病を患い手術を受けたと後で知りました。幸い手術は成功したとのことです。
その後、野口さんには話しておきたいと、Bさんから分厚い手紙を頂きました。幼い頃からの辛い思いや、Aさんとの固執もビッシリ書いてありました。私はその手紙を拝見し、このままにしておいてはいけないと、即次のような返事を書きました。以下略文
「このようなお手紙を私にくださるには勇気がいたことと思います。子供の頃から色々なことがありましたね。人を恨まなければならない環境にあったことはよく分かりました。だが、人を恨むとことは、ものすごいエネルギーを消耗します。
亡くなったお姉さんを許してあげたらどうでしょうか、いままで辛い思いをされたことは十分承知です。人を恨みながら死んでしまったら、遺恨は来世まで残りまた自分に還ってきます。
恨みはどこかで断ち切らねばエンドレステープとなり、永遠に続きます。そうは言っても気持ちは簡単に切りかえられないかも知れません。だが、お姉さんを許してあげてください。仏壇に手を合わせ、嘘でもいいからお姉さんを許すと言ってください。毎日続けていると本当に許せる気持ちになります。
人に言えないご苦労、言葉で表せない辛さはお察しします。大病を乗り越えたことは、このまま恨みを残して死んではいけないと、天が今しばらく寿命を与えくださったのです。
勝手なことを書いてしまいました。お許しください。だが、このままでは御自身が不幸で終わってしまいます。原因はすべて御自身の心のなかにあると思ってください。 野口賢次 拝」
Bさんは涙をボロボロ出しながらこの手紙を読んでくれたそうです。「そんな気持ちになれるものか」と思いながらも仏壇に手を合わせ、姉さんを許すと言ってくれたそうです。
しばらくし、Bさんからお礼を言われました。「物心がついてから70数年来、一時も頭から離れなかったシコリが取れ、気持ちが楽になりました。今が一番幸せな気がします。」うれしい言葉でした。
10年前に終えたと思っていた相続案件でしたが、本当の意味で終わったことを感じました。
地主相続最大の危機 (平成20年10月) ≪前へ次へ≫ 杭を残して悔いを残さず (平成20年12月)
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