■野口レポート
No.147 杭を残して悔いを残さず (平成20年12月)
不動産市況が急激に悪化しています。安くても売れればよしです。前回の昭和バブル崩壊では地価は時間をかけ、ゆっくりと下がっていきました。今回の都市圏での平成バブル崩壊の特徴は、地価が短期間に急落していることです。
路線価と実勢価格にはタイムラグがあります。場所によっては路線価でも売れなくなった土地も出てきました。路線価と実勢価格が乖離し、物納も難しくなった状況のなかで、地主さんに相続が発生したらその厳しさは今までの比ではありません。
地主相続での一番の要は、実務に精通した税理士(本当に少ないです)と、確定測量に特化した土地家屋調査士です。相続は何を知っているかではなく、誰を知って(これは運です)いるかです。
調査士の仕事と役割は一般にはあまり知られておりません。難しい試験に合格し取得できる国家資格です。そして人間力が求められる高いレベルの職業です。だが、士業でありながら先生と呼ばれず測量屋さんと呼ばれます。
調査士は測量や土地の分筆登記、建物の表示登記などが主な仕事です。単に現況を測るだけなら、測量機器も進化しており難しい仕事ではありません。相続実務での調査士は、全員の隣接地主からハンコをもらい境界を確定する重要な役目を負います。
以前手がけた案件ですが、先代との間に遺恨があり隣接地主さんからハンコがもらえないことがありました。
交渉中にご本人が急逝し、奥様との交渉になりました。言われた言葉は「お父さんの恨みは私が相続する」でした。人の心の怨念の深さを思い知らされたことがあります。
地主さんの財産構成は土地が占める割合が圧倒的です。相続税は親が亡くなってから10ヵ月以内に現金一括払いで納めるのが大原則です。もし、境界が確定しなければ土地は商品にならず、デベロッパーや建売業者は買ってくれません。
隣接地主が相続争いをしている、争いが解消するまで境界確忍のハンコはもらえません。管理組合のないマンションがある、隣接地主は何10人にもなります。所有が法人で会社が倒産してしまっている、関係者がどこにいるのか分からない。地主さんが認知症を発症している。いずれも境界が確定できません。
売買契約を締結し相続税納税の目途も立ち、ホッとしたのも束の間、隣接地主のハンコがもらえず、たった1本の杭で大苦戦を強いられることもあります。
決まらなければ、所有権確認訴訟等を提訴し裁判で判決を取らなければ境界は確定できません。地主相続での確定測量は遺産分割に次ぎ最も気を使う部分です。
境界線は、感情線とも勘定線とも言われます。境界確定は時として長い時間を必要とします。「杭を残して悔いを残さず」土地家屋調査士会の標語です。相続は事前の準備で悔いを残さないことが大切です。
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