■野口レポート
No.174 売買契約の決済は厳粛な瞬間 (平成23年3月)
相続の相談や実務で大事なことは、相談者や依頼者の話を十分に傾聴し、相続問題の本質をつかみ方向を決めることです。この方向を誤ると相続人様を幸せの道へ案内することはできません。
方向が決まったら、ネットワーク(人脈)のなかから、その相続案件に最も適した各専門家を選びセッティングし、専門家とお客様の潤滑油として双方の間に入り、最後まで相続をサポートしていくのが相続コーディネーターの仕事です。
相続税が5億とか10億の地主さんの相続は、難度の高い心臓外科手術のようなもので、要となる税理士で運が分かれます。相続は、何を知っているかでなく、誰を知っているかで決まります。
次は土地家屋調査士(測量)です。相続での調査士は、単に土地を測るだけでなく、土地売買に必要な境界確定や、越境物解消等のハンコを隣接地主から速やかにもらう重い役目を負います。
次は不動産仲介業者です。土地売却の目的(相続税)を理解し、納税資金を捻出する重要な役割を担当します。
相続税は10カ月以内に現金一括払いが原則です。物納は制度としては残っていますが、平成18年の物納制度大改正で現実には難しくなりました。延納も納税者が思うほど簡単ではありません。
相続での土地売却は相続開始後10カ月以内に確実に残金決済ができることです。この土地に多くの不動産ブローカーが寄ってきます。だが、納税者の痛みを理解しているとは思えません。
高ければいいと、買主を見定めない仲介で決済が出来ないこともありました。決済がくずれると、限られた時間のなかでゼロからの再スタートとなり納税者にリスクが生じます。
土地が土壌汚染されていることもありました。処理の費用は対応の仕方や業者で大きく異なり、ここも今ひとつ分からない分野です。仲介業者にも慎重で大胆な決断が求められます。
パートナーの税理士も、計算や申告は当たり前であり、10カ月以内に相続人全員に、いかに相続税を現金一括納付させることができるか、それが自分(税理士)の仕事だと認識しています。
いよいよ土地売買契約の決済日を迎えます。銀行の応接室に関係者が揃い決済が始まります。相続人様から不動産登記識別権利情報(権利書)がデベロッパーなどの買主に渡ります。買主から数億単位の小切手(もしくは振込)が相続人様に渡ります。
相続人様がご先祖様の土地を失う瞬間です。それは相続税の呪縛から解き放たれる瞬間でもあります。私は相続での土地売買契約の決済を、いつも厳粛な瞬間として立ち合っています。
大きな地主さんの相続が終わると身も心もヘトヘトになります。だが、苦労を正しく消化した者のみが得られる、何とも言えない達成感と充実感が疲れた身体と心を癒してくれます。
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