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■野口レポート

No.186 目的をつかむ (平成24年3月)

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物事を実行していくときに大切なことがあります。「目的は何か」明確にすることです。行動するにはリスクは避けられません。リスクを恐れ行動できなくなることがあります。そのとき振り返るのが「目的は何か」です。(中條 尚さん中條レポートより)
知人の紹介でAさんが相談に見えました。Aさんは45歳独身の女性で父親と同居しています。父親が亡くなりました。遺産は30坪ほどの自宅土地建物です。
相続人は母親とAさんの2人です。母親は重度の認知症で施設に入っています。他人から10か月以内に相続の手続きをしなければならないと言われ、どこへ誰に相談したらよいのか分からず、毎日悩んでいたそうです。
多くの相談者は自分の目的が分かっていません。話を十分傾聴しこの問題の目的は何かをつかみます。Aさんの目的は相続の手続きではなく、自宅に住み続けることだと分かりました。相続税も非課税の範囲で申告の必要はありません。
目的が分かれば方向が決まり、何をすればよいのか何をしなければならないかが明確になります。
Aさんの目的は、「家に住み続ける」ことです。私のアドバイスは「このまま何もしないで放っておきましょう」でした。


母親には判断能力がありません。相続手続きには成年後見人をつけ遺産分割をしなければなりません。母親を成年被後見人として登記してしまうと、何をするにも後見人で、行為によっては家庭裁判所の許可が必要となります。そして生涯外すことができません。
何もしなければ父親の遺産は、母親とAさんの遺産未分割共有の状態になります。だが、住み続ける分には何の支障もありません。何もしなくてもAさんの目的は十分達成できるのです。
いずれ母親が亡くなれば相続人はAさん一人です。ここで父親と母親の相続手続きを一緒にし、自宅の名義を自分に移せば済むことです。このアドバイスにAさんは安どの表情で帰られました。
相続問題を舞台に例えてみましょう。一番前の席に座ってしまったら役者の顔は見えても流れは見えません。一番後ろの席に座ってしまったら流れは見えても役者の顔は見えません。
相続問題の本質をつかむには、ほどよい席から舞台を見つめ、相談者や相続人の幸せを心から考えてみることです。
相続コーディネーターは法律家ではありません。目的(本質)をつかみ、相続人様を幸せの道へ案内する相続の実務家です。
今まで多くの相続にかかわってきましたが、私の相続にたいする思いはたったひとつです。「のこされたすべての人を幸せにする相続であってほしい」のです。
この「目的」は微塵もブレたことはありません。明確な目的をもって、残りの人生を生きている自分に幸せを感じます。

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