■野口レポート
No.187 相続と三尺箸 (平成24年4月)
「地獄でも極楽でも、食卓にはたっぷりのご馳走が用意されている。ただし、どちらの住人も、三尺(約90センチ)の箸を使って食べなければならない。
地獄の住人は、先を争って長い箸で口に入れようとするが、届くはずもなく飢えてやせ細る。
極楽の住人を見れば、長い箸でご馳走をつまみ、向い合う人の口に、どうぞと食べさせている。お互いに与え合い、楽しく満ち足りた心持ちで暮らしている。」三尺箸と呼ばれる仏教説話です。
この三尺箸を相続に置き換えてみましょう。
「親は食卓(相続)に、たっぷりのご馳走(遺産)を残してくれた。相続人は、三尺の箸でご馳走を食べなければならない。
ある相続人は、食卓のご馳走はあたりまえだと思っている。先を争って、長い箸で口に入れようとするが、届くはずもなく飢えて痩せ細る。奪い合うから幸せになれない。
ある相続人は、食卓のご馳走はありがたいと思っている。感謝の気持ちがあるから、譲ることができる。長い箸で他の相続人に、どうぞと食べさせてあげる。こちらが譲るから、相手もどうぞと食べさせてくれる。お互いが譲りあえるから、楽しく満ち足りた心持ちになり、幸せに暮らすことができる。」相続の三尺箸です。
我欲で三尺箸を使ったら、相続人は幸せになれません。まして、奪い合ったら、兄弟姉妹の縁は切れてしまいます。相続が原因で切れた縁は、二度とつながることはありません。
ところが、長い間疎遠であった兄弟姉妹の縁が、相続がきっかけとなり、つながることもあります。
被相続人の長女、Aさんから相談を受けました。父親が亡くなり、遺産は預貯金が300万円。相続人は、母親と子供が4人です。
相続人の一人である、弟さんが32年間行方不明なので、相続の手続きがでません。疎遠になった原因は、弟さんにあり、すでに兄弟姉妹達は縁を切っているとのことでした。
相続人確定調査の結果、弟さんは岡山にいることが判明しました。
弟さんに、相続人である旨のお手紙を出しました。岡山から電話が入りました。母親の介護をしている、Aさんが遺産を相続することで、他の相続人とは、すでに合意していることを伝えました。
数回のやり取りのあと、弟さんは気持ちよくハンコを押してくれました。弟の対応を知ったAさんは、昔のことは忘れると言ってくれました。互いが、三尺箸を上手に使ったのです。
相続手続きも無事終わり、Aさんから弟さんに、電話を入れていただきました。弟さんは、とてもよろこんでくれたそうです。Aさんは他の兄弟とも相談し、弟さんを父親の一周忌に呼ぶそうです。
目に見えない、不思議な力を感じることがあります。今回の復活劇も、亡き父親が導いてくれたような気がしてなりません。
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