■野口レポート
No.188 手段は目的にあらず (平成24年5月)
賃貸マンションやアパートの建築が、相続対策になることは多くの人に知られています。しかし、借金が相続税を減らす節税対策にならないことを知っている人は少ないです。
「資産―負債(借金)=課税価格」、この課税価格に相続税が課税されます。課税価格が上がれば相続税は増えます。課税価格が下がれば相続税は減ることになります。
「資産(3億円)―負債(0円)=課税価格(3億円)」、課税価格の3億円に相続税が課税されます。
この財産構成で、銀行から2億円の借金をします。借金の2億円が手元にあるうちは、「資産(3億円+2億円)-負債(2億円)=課税価格(3億円)」となり、借金しても課税価格は変わりません。当然に相続税が減ることはありません。
ならば、借金で得た現金で建築費2億円の賃貸マンションを建てたならどうなるか。マンション(家屋)の相続税評価額は固定資産税評価額(建築費の約70%)となります。
また、建物には借家人の強い権利(借家権)が付いてしまいます。ゆえに、固定資産税評価額から、さらに30%評価が下がり、建築費2億円の建物が、1億円以下の評価となります。底地は利用が限定されてしまうので、貸家建付地として約20%減額されます。
「資産(3億円+1億円)― 負債(2億円)=課税価格(2億円)」、これで課税価格が下がります。つまり、相続税が減るのは借金ではなく、借金で得た現金を固定資産に換えることに生じるのです。
たしかに建物や土地の評価は下がり、相続税は減らすことができました。だが、大きな借金は残ります。相続税が借金と入れ替わったことに気付く地主さんはいるでしょうか……。
仮に新築後に満室となったこのマンションを売却するとします。土地の上に賃貸建物が乗ってしまったら、その建物が年間どのくらいの収益を生み出すかが、物件評価の基準となります。
新築工事に2億円を投資し、新築時満室稼働した際の売却可能価格は、1億7000万円にしかならないなど、立地や事業計画によっては、新築時点で大きな損失を含んでしまいます。
いざ物件を売却しようとしたら評価損が出てくることなど、素人には提案書からは読み取れません。土地も当然に建物と一体です。提供した土地の評価を加えたらどうなるでしょうか……。
手段は目的実現のための方法です。いくら立派な賃貸マンションでも、全額借入35年返済の借金コンクリート。そして、固定資産税、所得税、市県民税、個人事業税、大規模修繕など、手元にお金は残りません。木造でも返済期間10年なら先が見え、すぐに天下無敵の無借金(お金の生る木)、手元にお金は残っていきます。
建物建築は目的でなく手段です。目的を実現したいなら、その手段が間違いなく確実なのか、ここを見極めることが肝要です。
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