■野口レポート
No.257 相続実務に99%はありません (平成30年2月)
動物や植物は死んだり枯れたりしたらそれで終わりです。ところが人間は亡くなると相続が開始するからやっかいです。
相続は人生で何度も経験するものではありません。遺族はどこへ行ったらよいのか、誰に相談したらよいのか全く分かりません。葬儀で親身になって世話をしてくれた葬儀屋さんへ相談する人も少なくありません。ある顔見知りの葬儀社の社員さんからAさんの相談に乗ってやってくださいと頼まれました。
被相続人は独身の長兄です。相続人は次兄、妹のAさん、代襲者で姪の3人です。Aさんは亡き母と長兄と同居し2人の世話をし、最後を看取り葬儀も取り仕切りました。
財産は自宅しかありません。自宅を換金し分けることになりました。売ればAさんの住むところが無くなります。Aさんが自宅を相続し、売却したお金で中古マンションを購入し、残ったお金は3人で均分し、他の相続人には代償金として渡すことになりました。
中古マンションの購入価格は上限を2800万円と設定しました。
ところが次兄のお嫁さんが、私達の家はまだローンが残っているんだと、さかんに言ってきます。中古とはいえ無借金でマイホームを手に入れる妹への「ひがみ」です。
しかたなく購入価格の上限を1800万円に下げました。築年数43年で108戸が2棟の大規模中古マンションが見つかりました。大規模マンションはメンテナンスと管理組合がしっかりしているので安心です。築年数と価格を聞いて姉の「ひがみ」は収まりました。
換価代償分割は各専門家をコーディネートし、相続の壁をひとつひとつ乗り越え、並行し不動産を売却していく難しい作業です。
(1)Aさんが自宅を相続する。(2)信頼できる買主の不動産業者を選ぶ。(3)マンション購入、測量、家財処分、引っ越し、解体、仲介料、譲渡税、住民税、申告報酬、健康保険など、全ての費用を事前に算出し、実質の残金を確定させる。⇒ここが換価代償分割の一番のポイントである。(4)残金が確定すれば代償金の額が確定でき、遺産分割協議書が作成できる。(5)分割協議書があれば登記前でも自宅の売買契約が可能。(6)代償金を受け取る相続人は相続税以外は一切の負担はない、ただ手を広げ待っているだけでよい。
ここで壁にぶち当たりました。中古マンション購入に際しAさんから手付金が無いと言われました。業者と交渉し1週間待ってくれるようにお願いしました。1週間で①代償金を確定させる。②遺産分割協議書に全員の判子をもらう。③自宅の売買契約を締結し手付金を受け取る。④その手付金でマンション購入契約を締結する。
ひとつつまずけば全てが振出に戻ります。相続実務に99%はありません。常に100%が求められます。冷や汗をかきながら綱渡りのような1週間でした。
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