■野口レポート
No.139 天に預けた無形の預金 (平成20年4月)
高齢者社会を迎え相続セミナーが盛んに行われています。しかし、そのほとんどは法律や税金など技術的なことに終始しています。相続の要である「心の部分」を取り上げたセミナーはありません。
相続アドバイザー養成講座の第14期本講座が開講されます。幅広い分野の方が全国から参加されています。これまでに延べ人数にして679名の方が本講座を受講されました。
私は第1講座を担当し、法律、税金、実務など、相続全般の基礎知識をお伝えしています。最後は相続における「心のあり方」を話します。相続という専門的な講座に、人間としてのあり方を組み込んだのはこの講座が初めてかも知れません。
地方からの講演依頼も増えました。許す限りどこへでも出向き「心の相続」を話してきます。税理士・司法書士・FPなどの専門家、建築・不動産などの関連業者、地主家主等一般の方など、受講者様は様々ですが、いつも心に留め置いているふたつの話をします。
ひとつは、相続人の本当の幸せを考え、異母兄弟に全ての財産を譲った話です。財産と幸せが同じ方向を向かないA案件です。
ふたつ目は、全く正反対のアドバイスです。娘さんが親の財産を全部もらわなければならないと、公正証書遺言作成のお手伝いをしたB案件(女性を泣かすH.19.2.1で紹介)です。
講演で必ず伝えていることがもうひとつあります。「相続は譲った人が幸せになる」これは実務のなかで確信している事実であり、仕事上での私の信条でもあります。
ある講演の終了後、B案件のことで会場から質問を受けました。
質問者「《譲った人が幸せになる》と言っていますよね。」
私「ハイその通りです。」 質問者「結果として遺言で財産を奪うのだから、譲ったことになりませんよね。幸せにならないのでは…… 話が矛盾していると思うのですが……。」 するどい質問でした。
もし、ここで答えに行き詰まったり、ピント外れのことを答えてしまったら、「譲った人が幸せになる」今まで自分が言い続けてきた「この言葉」が一瞬にして説得力を失います。
すかさず答えました。「この娘さんは、自分を犠牲(婚期を逃し)にし、長い間父親を在宅で介護し、現在も母親の面倒を見ています。もし、長期間施設に入ったら、数千万の費用は消費しています。娘さんが苦労し在宅介護したから親の財産が残っているのです。
これは《徳》として自分自身が天に預けた預金です。また、親の介護のため、嫁にも行かず自分の不利益を選びました。これも見方を変えれば、兄弟姉妹に幸せを譲ったことになるのではないでしょか。」「だから娘さんは、必ず幸せになります。」と言い切りました。質問された方は大きくうなずいてくれました。
「譲る」これは天に預ける無形の預金です。いずれ利息と共に自分に還ってきます。相続で譲った人が幸せになれる所以です。
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