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■野口レポート

No.140 予備的遺言 (平成20年5月)

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高齢で一人暮らしのAさんから相談を受けました。Aさんには子どもがおりません。奥様はすでに他界され現在は独り身です。Aさんに相続が開始したら第3相続順位の兄弟姉妹が相続人となります。
近くに住む妹Bさんが親身になってお世話をしています。Aさんは自分が亡くなったら、お世話になっているBさんに財産を渡したいと考えています。遺言の作り方を教えてほしいとの相談でした。BさんのAさんに対する寄与貢献度や、財産の総額などからも不自然さはなく、Aさんの願いは人情です。
相談を受け一つだけ気になることがありました。受遺者(遺言で財産をもらう人)の年齢です。Aさんと歳の差がありません。もし、Aさんより先にBさんが逝ってしまったら、遺言の行き場がなくなります。Bさんの子どもが受遺者の立場を相続することはできません。これではAさんの願いは成就できません。
Aさんには予備的遺言のアドバイスをしました。「遺言者より先に又は遺言者と同時にBさんが死亡した場合は、Bさんに相続させるとした上記一切の財産は、甥○○に相続させる。」こんな条文を遺言に入れてもらうことにしました。
こうしておけば、万が一Bさんが先に逝っても、Bさんの息子さんがAさんの遺産を全て相続することができます。もちろんAさんにも異議はありません。


夫婦相互遺言があります。「全財産を妻○○に相続させる」「全財産を夫○○に相続させる」、夫婦が別々に(共同遺言は無効)遺言を作っておくものです。子どものいない夫婦にはよくある話です。
作った人は、遺言が公正証書であり、かつ遺言執行者に法律の専門家が指定されていれば、安心しきってしまいます。受遺者が先に亡くなったらどうなるか、そんなこと考えてもいません。
行き先がなくなった遺言は作り直したくても、すでに遺言者は高齢です。もし、認知症の症状が出てしまったら作ることはできません。受遺者が先に逝ったらどうするか、夫婦相互遺言はそこまで考えて作りたいものです。
子どもがいません。祖父母・父母などの直系尊属もいません。相続人は配偶者である妻(4分の3)と、夫の兄弟姉妹(4分の1)になります。遺言がなければ遺産分割協議が必要です。
法律で相続分は決まっています。だが、相続人全員が合意したら(させられたら)どんな分け方もできます。妻が夫の兄弟姉妹からハンコをもらうのは辛いものがあります。「全財産を妻○○に相続させる」と遺言を作っておきましょう。兄弟姉妹には遺留分がありません。全ての財産は妻が相続でき、老後の糧となります。
子どものいない夫婦にとって、長年連れ添ってきた妻は何にも代えがたく、感謝は計り知れないものがあります。苦労をかけ、長い間世話になった奥様へ、感謝の気持ちを形(遺言)で残してください。これは夫が妻へ宛てる最後のラブレターです。

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