■野口レポート
No.119 相続を成功させる秘訣 (平成18年8月)
生前の相続対策には大きく分けて三つの対策があります。
一つ目は「遺産分割対策」です。遺言の作成、資産の整理や組替など、争いを予防し、かつ親の財産を分けやすくしておく対策です。
二つ目は「相続税納税対策」です。税額を把握し、物納や売却予定地の整備、生命保険の活用など、相続人全員が円滑に相続税を納税できるよう準備しておく対策です。「どう分けて」「どう納めるか」この二つは相続対策で最も優先すべき重要な対策です。
三つ目は「相続税節税対策」です。資産の評価減や暦年贈与など、相続税をいかに減らすことができるかの対策です。
どれも必要な対策です。ところが、この三つが同じ方向を向いてくれません。それどころか正反対に向かってしまうこともあります。水と油のように三つの顔はそれぞれ性質が違うのです。
更地に賃貸マンションを建てると、建物の相続税評価額は建築費の約半額で評価されます。底地は貸家建付地として減額されます。資産を組替える(現金→建物)ことで評価が下がり、相続税を減らすことができます。節税対策としては成功です。
相続税納税のため、このマンションを売ることになりました。
収益物件は家賃利回りで価格が決まる時代です。借入金を精算したら手元にお金は残りません。更地の駐車場にしておけば相続税は払えたはずです。納税対策としては失敗です。
借金すれば相続税が減ると錯覚している人がたくさんいます。
ひと頃、借金コンクリートで賃貸物件を建てる、節税対策が営業のツール(道具)としてさかんに使われました。
「相続対策になりますよ」→営業マン、「いくらでもお貸ししますよ」→支店長、「このままでは土地を失いますよ」→ひも付き税理士、
相続対策は相続税を減らす節税対策の独壇場でした。
節税対策としてヘリコプターの購入を勧められた地主もいます。試乗はしたもののさすがに買うのは見合わせたそうです。
バブルが崩壊し、不動産の価値は下がり続けます。だが借金の価値は一緒には下がってくれません。相続対策のつもりで建てた賃貸物件も空室が目立ちはじめ、加え金利上昇の追い討ちです。
「あの営業マン、あの支店長、あの先生は何だったんだ!」
だが、この人達を恨んではいけません。
最後に決めたのは自分です。これが自己責任というものです。
人間には欲があります。
相続税は減らしたい、円滑な納税もしたい、土地は失いたくない、この三つ全て手に入れようとします。相続を切り口に、資産家の欲につけ込み、己の利益を優先してしまう輩はたくさんいます。
得ることは捨てることだと心得てください。土地に執着しなければ財産は残せます。譲りあえば円満分割で幸せが得られます。
何を優先させるのか、方向が定まったら他を捨てることです。
相続を成功させるコツは欲張らないことです。
NPO法人 相続アドバイザー協議会 (平成18年7月) ≪前へ次へ≫ 感謝して受け容れる (平成18年9月)
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